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相続放棄をする際に知っておきたい不動産相続の手続きと注意点

相続放棄をする際に知っておきたい不動産相続の手続きと注意点

相続で不動産を引き継ぐことになったとき、「この不動産は引き継ぎたくない」と思うケースは少なくありません。特に名古屋市のような都市部では、老朽化した物件や遠方の土地、多額の住宅ローンが残っている不動産など、相続することでかえって負担が増えるケースもあります。そんなとき検討される選択肢の一つが「相続放棄」です。

WIN SQUAREは名古屋市で事業用物件・収益不動産に特化して不動産売却や相続のサポートを行っていますが、多くのお客様から相続放棄に関するご相談をいただきます。本記事では、不動産の相続放棄に関する基本的な知識から実際の手続き、そして見落としがちな重要な注意点までを解説します。

 

相続放棄の基本

相続が発生すると、相続人は以下3つの選択肢から相続の方法を選ぶことができます。

1. 単純承認:被相続人のすべての権利や義務をすべて受け継ぐ方法
2. 相続放棄:被相続人の権利や義務を一切引き継がず放棄する方法
3. 限定承認:相続によって得た財産の限度で被相続人の債務を負担する方法

このうち「相続放棄」は、家庭裁判所に申述を行い、それが受理されることで成立します。相続放棄が認められると、その相続人は初めから相続人ではなかったとみなされます

相続放棄をすることで得られるメリットには以下のようなものがあります:

• 借金などのマイナスの財産を相続しなくて済む
• 相続人でなくなるため、揉め事の多い遺産分割協議に参加しなくて済む
• 不動産にかかる固定資産税の支払い義務が生じない

しかし、重要なのは、相続放棄は特定の財産だけを選んで放棄することはできないという点です。現金、預金、有価証券、不動産、借金など、すべての財産・負債をまとめて放棄する必要があります。

 

不動産の相続放棄が検討される場面

不動産の相続放棄が検討されるのは、主に以下のような場合です:

• 老朽化した空き家や遠方の不動産で、維持管理が困難
• 物件に多額の根抵当権がついている
• 公道に接していないなど、市場価値がほとんどない土地
• 固定資産税の負担が大きい
• 相続人間のトラブルを避けたい

特に名古屋市のような都市部では、土地の固定資産税評価額が高く、相続した不動産の維持コストが相続人の負担になるケースが多く見られます。また、相続した不動産が収益物件の場合、その管理や運営のノウハウがないと、かえって資産価値が下がってしまうリスクもあります。

相続放棄のポイント:相続放棄を検討する場合は、不動産だけでなく預貯金などのプラスの財産もすべて放棄することになるため、トータルでの損益を考慮することが重要です。特に事業用・収益不動産の場合は、専門家による適切な資産評価を行った上で判断しましょう。

 

相続放棄の手続き

申述期間:3ヶ月の制限

相続放棄には期間制限があり、被相続人の死亡を知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません。この3ヶ月は「熟慮期間」と呼ばれ、相続を受けるか放棄するかを決めるための猶予期間です。

相続財産の調査などで3ヶ月以内に判断できない場合は、家庭裁判所へ申し立てることで期間を延長してもらうことも可能です。ただし、単に「忙しい」「検討する時間がない」といった理由では延長は認められません。

申述先:家庭裁判所

相続放棄の申述は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に行います。例えば、被相続人が名古屋市内に住んでいた場合は、名古屋家庭裁判所が管轄となります。

必要書類

相続放棄の申述に必要な書類は以下の通りです(申述人と被相続人の関係によって一部異なります):

• 相続放棄の申述書
• 被相続人の住民票除票または戸籍附票
• 申述人の戸籍謄本
• 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本
• その他、相続関係を証明するための戸籍謄本等

同じ書類は1通で足り、申述前に入手不可能な戸籍がある場合は、後から追加提出することも可能です。審理のために追加書類の提出を求められることもあります。

費用

相続放棄にかかる費用は、自分で行う場合と専門家に依頼する場合で大きく異なります。

自分で行う場合:収入印紙(申述人1人につき800円)、郵送費・書類取得費(約2,000円~3,000円程度)で、合計約3,000円~5,000円程度
専門家に依頼する場合:
  o 司法書士:約3万円~7万円程度
  o 弁護士:約5万円~15万円程度

弁護士に依頼すると司法書士よりも高額ですが、手続きのすべてを代理してもらうことができ、他の相続人との交渉なども依頼できるという大きなメリットがあります。

手続きの流れ

相続放棄の手続きは、以下の流れで行われます:

1. 遺言書の有無や内容を確認する
2. 亡くなった人の財産(プラス・マイナス両方)を調査する
3. 法定相続人を確定させる
4. 「相続放棄申述書」を作成し、必要書類と費用を添えて家庭裁判所に提出する
5. 裁判所から照会書が届いた場合、回答して返信する
6. 「相続放棄申述受理通知書」を受け取る

手続きが完了したら、債権者への証明のために「相続放棄申述受理証明書」を取得しておくことをお勧めします。

手続きのポイント:相続放棄の申述期間(3ヶ月)は意外と短いものです。特に不動産が複数ある場合や、被相続人の財産状況が複雑な場合は、早めに調査を始め、必要であれば専門家に相談することをお勧めします。名古屋市内の不動産については、WIN SQUAREのような地域に精通した不動産会社に相談することで、適切な判断材料を得ることができます。

 

不動産の相続放棄における注意点

相続財産の管理義務が残る可能性

相続放棄をしても、その放棄によって相続人となる者が相続財産の管理を始めるまでは、放棄した者は当該不動産の管理を継続しなければならないと民法第940条に定められています。これは「善管注意義務」と呼ばれ、自分の財産と同じように管理する必要がある義務です。

管理義務は、次の管理者が決まるまで続き、相続財産管理人が不動産を国庫帰属させる手続きが完了すれば、管理義務から解放されます。

管理義務を怠り不動産を放置した場合、倒壊や事故によって他人に損害が発生すれば、損害賠償請求をされる危険があります。放置された空き家が近隣環境を悪化させたり、犯罪に利用される可能性もあります。

ただし、相続財産の管理義務が発生するのは「相続人全員が相続放棄をした場合」です。もし自分以外の相続人が相続するか、相続財産管理人などに引き渡すのであれば、管理義務は発生しない可能性があります。

相続放棄ができなくなる行為(単純承認とみなされる行為)

相続放棄の申述期間(3ヶ月)を過ぎると単純承認とみなされますが、期間内であっても、相続財産に手をつけてしまうと「単純承認」をしたとみなされ、相続放棄が認められなくなる可能性があります。これを法定単純承認といいます。

単純承認とみなされる行為には以下のようなものがあります:

• 亡くなった人の預貯金の解約
• 不動産の譲渡
• 亡くなった人の住んでいたアパートの契約解除
• 滞納していた家賃の支払い
• 生前利用していた病院の入院費や介護費用の支払い

ただし、常識的な範囲の葬儀費用を亡くなった人の口座から支払うことは問題ありません。相続放棄を考えている場合は、手続き完了まで亡くなった人の財産にむやみに関わらないようにすることが重要です。

不動産以外の財産もすべて放棄することになる

相続放棄を行うと、当該不動産以外の財産についてもすべて権利を放棄することになります。預貯金や有価証券など、不動産以外のプラスの財産も相続できなくなるというデメリットがあります。

もしプラスの財産がマイナスの財産よりも多かった場合、相続放棄をすることで損をしてしまう可能性があります。また、他の相続人が当該不動産を売却し利益を得ても、相続放棄をした者はその売却益を得ることはできません。

他の相続人への影響と連絡の重要性

相続放棄をすると、その人の相続権は次順位または他の同順位の相続人に移ります。例えば、子全員が相続放棄した場合、相続権は親(直系尊属)に移り、親や祖父母もいない場合、または彼らも放棄した場合は、兄弟姉妹に移ります。
予期せず相続人になった次順位の相続人が、被相続人の負債を知らずに相続財産を処分して単純承認とみなされ、借金を肩代わりしなくてはならなくなる可能性があります。このようなトラブルを防ぐためにも、相続放棄をしたことを可能な限り親や兄弟など、次の相続人に知らせることが重要です。

固定資産税に関する注意点

不動産に対する固定資産税は、毎年1月1日時点の登記簿上の名義人に課税されます。放棄が年明け以降に受理された場合でも、前の名義人(被相続人)宛てに課税通知が届く可能性があります。その場合、役所への説明や、相続放棄申述受理通知書の提出が必要になることがあります。

相続放棄は原則撤回できない

一度、家庭裁判所で相続放棄の手続きが受理されると、原則として撤回できません。裁判所が誤認などの特例を認めた場合に限り、まれに認められることがある程度です。そのため、放棄をする前にしっかりと財産内容を確認し、慎重に判断することが大切です。

相続放棄しても費用がかかるリスク

相続放棄をしても、相続財産を管理するための費用が発生する場合があります。特に、相続人が全員相続放棄するなどして相続財産管理人が選任される場合、その管理人への報酬に充てるために数十万円や百万円といった予納金が必要となるケースが多数あります。

注意点のポイント:相続放棄の手続き自体は比較的簡単ですが、その後の管理義務や予期せぬ費用負担など、見落としがちな重要なポイントが多くあります。特に名古屋市内の事業用・収益不動産の場合、その価値や将来性を正確に把握した上で判断することが重要です。WIN SQUAREでは不動産の適正評価から相続対策まで、専門的なアドバイスを提供しています。

 

相続人全員が相続放棄した場合

相続放棄をする際に知っておきたい不動産相続の手続きと注意点

相続財産管理人の選任

法定相続人全員が相続放棄した場合、その相続財産は「相続人のあることが明らかではない」状態となります。この場合、債権者や既に放棄をした相続人などの利害関係人が申立てを行うことで、家庭裁判所によって相続財産清算人(旧:相続財産管理人)が選任されます。

財産の処分・清算と国庫帰属

相続財産清算人が選任されると、管理人が被相続人の資産や負債の状況を確認し、相続財産を処分して負債の清算にあてます。清算後に余った財産があれば、最終的に国庫に帰属することになります。

申立ての手間とコスト

相続財産清算人の選任申立ては、予納金などの費用を負担したり、申立てに時間や手間を要します。債権者にとっては、選任されても市場価値のない財産であることが多いため、必ずしも納得いく清算ができるわけではないのが現実です。

相続放棄した相続人が相続財産清算人選任の申立てを行う利害関係人に該当するかは、空き家倒壊の危険があるなど、自治体から管理を求められているような事情が生じてから認められる場合があります。

このセクションのポイント:相続人全員が相続放棄をすると、不動産は最終的に国庫に帰属することになりますが、その過程には多くの手間とコストがかかります。名古屋市のような都市部では、不動産の価値が比較的高いため、相続放棄ではなく売却という選択肢も検討する価値があります。WIN SQUAREでは、事業用・収益不動産に特化した売却サポートを提供しています。

 

相続土地国庫帰属制度との比較

制度の概要と目的

相続土地国庫帰属制度は、管理が行われなくなった土地の荒廃を防ぎ、周辺住民とのトラブルを防止することを目的として、令和5年4月27日から施行されました。簡易な手続きにより、相続財産に含まれる土地を国庫へ帰属させることができます。

相続放棄との主な違い

相続放棄と相続土地国庫帰属制度は目的こそ似ていますが、手続き先や対象範囲、費用や要件に大きな違いがあります。

比較項目 相続放棄 国庫帰属制度
対象 財産全体(プラス・マイナスすべて) 土地のみ(建物不可)
手続き先 家庭裁判所 法務局(審査あり)
要件 なし(期間制限、単純承認行為の禁止など) 境界明確、建物なし、担保なしなど
費用 数千円程度(自分で行う場合) 約12万円~(申請費用+負担金)
空き家の場合の利用

相続した空き家についても、建物を取り壊して更地となった土地であれば、一定の要件を満たすことにより国に引き取ってもらうことが可能です。相続放棄をすることなく、引き継いだ空き家の処理に困った際に、取り壊した上でこの制度を利用することも検討するとよいでしょう。

このセクションのポイント:相続土地国庫帰属制度は特定の土地だけを国に引き取ってもらえる制度ですが、相続放棄と比べて要件が厳しく、費用も高額です。名古屋市のような不動産需要が高い地域では、売却という選択肢も含めて、総合的に判断することが大切です。

 

専門家への相談の重要性

相続放棄をする際に知っておきたい不動産相続の手続きと注意点

なぜ専門家に相談すべきか

不動産の相続放棄は、手続き自体は自分でも可能ですが、多くの注意点やリスクを伴います。専門家に相談するメリットには以下のようなものがあります:

• 手続きの正確性の確保:相続放棄の申述手続きは、必要書類が多く、戸籍の抜けや記載ミスなどで再提出となるケースが少なくありません。
• 相続人間の調整:相続人が複数いる場合、相続人間の利害がぶつかることがあります。弁護士や司法書士が中立的な立場で調整役を担うことで、トラブルを防ぐことができます。
• 放棄後の管理や税務処理への対応:放棄が認められた後も、自治体とのやり取りや必要書類の提出など実務対応が必要です。
• 適切な判断のためのアドバイス:相続財産の全体像を正確に把握し、相続放棄すべきか、単純承認や限定承認が適切かを判断するには専門的な知識が必要です。

相談できる専門家とその役割

相続放棄に関する相談は、主に以下の専門家が考えられます:

• 弁護士:相続全般に関する相談ができ、相続人同士の紛争対応や遺産分割協議の代理も可能です。本人に代わって相続放棄を行う代理権を有しています。
• 司法書士:申述書の作成や提出代行、登記手続きまで対応できます。ただし、弁護士と異なり代理権はないため、書類提出や裁判所からの照会書への回答は自分で行う必要があります。
• 不動産鑑定士:相続対象の不動産価値を客観的に評価します。不動産の売却や放棄判断の材料として役立ちます。

無料相談の活用

多くの専門家事務所や、自治体、法テラス、家庭裁判所では、相続放棄に関する無料相談を受け付けています:

• 弁護士事務所:相続全般に関する相談ができ、手続き代行の依頼も可能です。
• 司法書士事務所:書類作成や手続きに関する相談ができます。
• 市役所:地域の弁護士や司法書士による無料相談(予約制)を実施している場合があります。
• 法テラス:経済的に余裕のない方向けに、弁護士や司法書士による無料相談や手続き代行支援を行っています。
• 家庭裁判所:相続放棄の手続きに関して質問できます。

限られた相談時間を有効に使うためには、現状や相談したい内容を具体的にまとめておくことが重要です。亡くなった日、亡くなった人との関係、遺産の内容、質問したいことなどを整理しておくとよいでしょう。

専門家相談のポイント:不動産、特に事業用・収益不動産の相続放棄を検討する場合は、不動産に精通した専門家に相談することが重要です。名古屋市で事業用物件や収益不動産を扱うWIN SQUAREでは、相続に関する無料相談も受け付けており、不動産の評価から相続対策までトータルでサポートしています。

 

まとめ

不動産の相続放棄は、不要な不動産の管理負担や税負担、負債の相続、相続人同士の揉め事を避けるための有効な手段です。しかし、相続放棄はすべての相続財産を放棄することになるため、プラスの財産も放棄することになります。
また、相続放棄後も次の管理者が決まるまでは管理義務が残る可能性があり、適切に管理しないと損害賠償請求などのリスクを負うことになります。さらに、相続財産の処分行為をすると相続放棄ができなくなる、他の相続人への影響があるため事前の連絡が重要である、一度放棄すると原則撤回できないといった重要な注意点があります。

相続人が全員放棄した場合は、相続財産清算人選任の手間や予納金の負担が生じる可能性もあります。相続土地国庫帰属制度という新しい選択肢もありますが、要件が厳しく費用も高額です。

このように、不動産の相続放棄には様々な注意点とリスクが伴うため、安易な判断は禁物です。相続放棄をするのが良いのか否か、自分のケースをよく検討する必要があります。相続放棄の期限は3ヶ月と短く、判断も難しいことから、自力での判断に迷うような場合は、弁護士などの専門家への相談を強くお勧めします。

名古屋市で事業用物件・収益不動産に特化したWIN SQUAREでは、不動産の相続や売却に関するご相談を承っております。不動産相続でお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。専門的な知識と経験を活かし、最適な解決策をご提案いたします。