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法人名義で保有する事業用不動産の評価方法と税務のポイント

法人名義で保有する事業用不動産の評価方法と税務のポイント

法人名義で事業用不動産を保有すると、節税効果や事業承継の面で大きなメリットが得られる一方、評価方法や税務上の取り扱いが個人所有とは大きく異なります。特に名古屋市内で収益物件を複数保有されている不動産オーナーの方々から、「法人化を検討しているが、実際にどのような評価方法が適用されるのか」「相続や売却時の税務がどう変わるのか」といったご相談を数多くいただきます。

評価方法を誤ると、想定外の税負担が発生したり、せっかくの節税効果が薄れてしまったりする可能性があります。私たちWIN SQUAREでは、愛知県名古屋市で事業用物件・収益不動産の売却や相続サポートを専門に行っており、法人所有の不動産評価や税務戦略について、多くの実務経験を積んできました。

本記事では、法人名義で保有する事業用不動産の評価方法の基本から、税務上の重要なポイント、相続・事業承継に備えた実践的な戦略まで、実務に即した形で詳しく解説していきます。

 

法人が保有する不動産の評価方法

法人が保有する不動産は、相続や贈与の際に「株式評価」を通じて間接的に評価されます。これは個人所有の不動産評価とは根本的に異なる点です。なぜなら、法人の不動産は会社の資産であり、相続や贈与の対象となるのは不動産そのものではなく、その法人の「株式」だからです。

財産評価基本通達に基づく評価の仕組み

法人が保有する不動産は、財産評価基本通達に基づいて相続税評価額として評価し直されます。特に純資産価額方式で株式を評価する際には、会社の資産・負債を相続税評価へ洗替える作業が必要となり、この評価額が会社の純資産価額に反映され、最終的に株式の評価額に影響を与える仕組みです。

具体的な評価方法は以下の通りです。

土地の評価 - 路線価方式:路線価が定められている地域では、その路線価を基準に評価 - 倍率方式:路線価がない地域では、固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて評価

建物の評価 - 固定資産税評価額(倍率1.0)がそのまま相続税評価額となります

含み益と含み損が株価に与える影響

法人が保有する不動産に含み益や含み損がある場合、それが株価評価に大きな影響を及ぼします。

含み益がある場合、帳簿価額より相続税評価額が高くなるため、会社の純資産価額が増加し、株価が上昇します。結果として、相続税や贈与税の負担が重くなる可能性があります。

一方、含み損がある場合や新築建物を保有している場合は状況が異なります。建物の相続税評価は固定資産税評価額で行われますが、これは取得価額より低めに出る傾向があるため、帳簿価額(取得価額ベース)との差額から純資産が下がるケースがあります。これは税務上有利に働くこともありますが、資産価値の観点からは注意が必要です。

土地と建物の所有形態による違い

実務でよく見られるのが、土地は法人名義、建物は個人名義といった「分離所有」のケースです。この場合、土地については法人の資産として株式評価に反映される一方、建物は個人の相続財産として別途評価されることになります。
このような所有形態では、借地権や借家権の評価も関係してくるため、評価が複雑になります。それぞれの権利関係を明確にし、適切な評価を行うことが重要です。

評価方法のポイント: 法人所有の不動産評価は、不動産そのものの価値だけでなく、会社全体の財務状況や株主構成にも左右されます。含み益の多い不動産を保有している場合は、将来的な株価上昇を見越した対策が必要になります。また、土地と建物の所有形態を分けている場合は、それぞれの権利関係を整理し、税理士や不動産鑑定士と連携しながら正確な評価を行うことが欠かせません。

出典: No.4638 取引相場のない株式の評価|国税庁

 

税務上の重要ポイント

法人名義で事業用不動産を保有する場合、個人所有とは異なる税務ルールが適用されます。特に売却時、贈与時、そして日常的な保有期間中の課税関係を正確に理解しておくことが、予期せぬ税負担を避けるために不可欠です。

法人税・地方税の取り扱い

事業用不動産を売却した際の売却益は、法人税、法人住民税、法人事業税、地方法人税の課税対象となります。個人の場合は分離課税による譲渡所得税が適用されますが、法人の場合は資産譲渡益が法人所得(益金-損金)に算入され、他の事業損益と通算される仕組みです。

この点は、黒字経営の法人にとっては利益が積み重なることで税率が高くなる可能性がある一方、赤字がある場合は売却益と相殺できるメリットもあります。

項目 個人所有 法人所有
課税方式 分離課税 法人所得に算入
税率 長期20.315%※短期39.63%※ 実効税率約30%前後(所得規模により変動)
損益通算 不可 可能

※所得税・住民税・復興特別所得税の合計

消費税の課税関係

不動産売却時の消費税は、土地と建物で取り扱いが異なります。土地の売却は非課税、建物の売却は課税対象となります。これは個人・法人を問わず共通のルールですが、法人の場合は課税事業者であることが多いため、消費税の納税義務が発生する点に注意が必要です。

特に、土地と建物を一括で譲渡する場合は、契約書上で土地と建物の価格を明確に区分しておく必要があります。区分が不明確な場合、税務調査で指摘を受けるリスクがあります。

建物の売却額が大きい場合、消費税の負担も相応に大きくなるため、売却時期や価格設定の際には消費税も含めた総合的な資金計画が求められます。

贈与時の税務

法人が関わる贈与は、贈与する側と受ける側の組み合わせによって税務上の取り扱いが大きく変わります。

法人から個人への無償譲渡の場合、重要なのは贈与税ではなく所得税が課税される点です。法人の役員や従業員が受け取った場合は給与所得として扱われ、通常の給与と合算されて課税されるため、税負担が大きくなりがちです。また、株主が受け取った場合は配当所得として課税されることもあります。

法人から法人への贈与では、贈与を受けた法人は受贈益を計上し、法人税が課税されます。一方、贈与した側の法人では寄附金として扱われ、損金算入には限度額があるため、全額を経費として認められない可能性があります。

売却時の譲渡税の違い

個人が不動産を売却する場合、所有期間によって長期譲渡所得(5年超、税率20.315%)と短期譲渡所得(5年以内、税率39.63%)に区分されます。しかし、法人の場合はこのような区分はなく、売却益は通常の事業所得として法人税等の対象となります。

実効税率は法人の規模や所得水準によって異なりますが、概ね30%前後となることが多く、個人の長期譲渡所得税率と比較すると高くなるケースもあります。ただし、他の事業で損失が出ている場合は相殺できるため、一概にどちらが有利とは言えません。

税務上の重要ポイント: 法人が不動産を売却・贈与する際は、個人とは異なる税務ルールが適用されるため、事前のシミュレーションが重要になります。特に消費税の取り扱いや、贈与時の課税関係は複雑なので、税理士に相談しながら進めることをお勧めします。また、売却益が他の事業損益と通算される点を活かし、タイミングを見計らった売却戦略を立てることで、税負担を最適化できる可能性があります。

出典: No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)|国税庁

 

相続・事業承継における税務戦略

法人名義で事業用不動産を保有する最大のメリットの一つが、相続税対策と事業承継の円滑化です。不動産そのものではなく「株式」が相続の対象となるため、評価方法の工夫次第で大きな節税効果を生み出せます。

法人化による相続税評価額の引き下げ

個人で不動産を所有している場合、相続時には土地・建物がそれぞれ相続税評価額で評価されます。しかし、法人が不動産を保有している場合、相続の対象は法人の株式となり、株式の評価方法によっては相続税評価額を大幅に抑えられる可能性があります。

非上場株式の評価方法には、類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式などがあり、会社の規模や株主の立場によって適用される方式が異なります。特に、少数株主が保有する株式については配当還元方式が適用され、評価額が大幅に下がるケースもあります。

小規模宅地等の特例の活用

個人所有の不動産だけでなく、同族会社が事業用に使用している宅地等についても小規模宅地等の特例を適用できる場合があります。特定同族会社事業用宅地等として、限度面積400m²まで80%の評価減を受けられるため、相続税の大幅な軽減が可能です。

適用要件としては、相続開始前から相続税の申告期限まで、その宅地等を引き続き事業用に供していることなどが求められます。また、一定の法人に貸し付けられ、その法人の事業の用に供されている必要があります。複雑な要件があるため、事前に税理士と十分に検討しておく必要があります。

なお、貸付事業用宅地等とは区分して考える必要があり、それぞれ適用要件や限度面積が異なる点にも注意が必要です。

株主構成の戦略的設計

相続税対策として有効なのが、将来の相続人を早期に株主として加える方法です。事業が成長する前の段階で後継者に株式を贈与または譲渡しておくことで、将来の相続財産の増加を抑制できます

また、株式の議決権と配当受益権を分離するなど、株主構成を工夫することで、経営権を維持しながら相続税評価額を抑える戦略も考えられます。ただし、あまりに恣意的な株主構成は税務当局から否認されるリスクもあるため、専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めることが大切です。

法人化のデメリットも認識する

法人名義で保有する事業用不動産の評価方法と税務のポイント

法人化には多くのメリットがある一方、デメリットも存在します。法人設立には費用や手間がかかり、設立後も決算や税務申告などの事務負担が継続的に発生します。また、赤字の年でも法人住民税の均等割(所得の有無に関わらず課税される税金)は納めなければならず、個人所有では発生しなかった固定費が生じます。

さらに、不動産売却時の税率が個人の長期譲渡所得税率より高くなる場合もあるため、将来的な出口戦略も含めて総合的に判断する必要があります。

相続・事業承継のポイント: 法人化による相続税対策は、単に不動産を法人名義にすれば良いというものではありません。株式の評価方法、株主構成、小規模宅地等の特例の適用可否など、多角的な視点から戦略を立てることが重要です。特に名古屋市内で複数の収益物件を保有されている場合、物件ごとに所有形態を変えるなど、きめ細かな設計が求められます。また、法人化のタイミングを誤ると、かえって税負担が増えるケースもあるため、専門家と連携しながら慎重に判断することをお勧めします。

出典: No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁

 

具体的な対策と注意点

法人名義での事業用不動産保有を成功させるには、適切なタイミングでの実行と、継続的な管理体制の構築が欠かせません。ここでは、実務で特に重要となる対策と注意点について解説します。

法人化の最適なタイミング

法人化を検討する目安として、課税所得が900万円を超えると個人の所得税率が33%に上がるため、一つの判断基準となり得ます。法人の実効税率は約29.74%(財務省公表値)であるため、この水準を超えると法人化のメリットが出やすくなります。

ただし、単純に税率だけで判断するのは危険です。住民税、社会保険料、外形標準課税(一定規模以上の法人)、役員報酬の設計、欠損金の繰越制度など、様々な要素を総合的に比較検討する必要があります。

収益物件を複数保有し、さらに拡大を計画している場合は、早期の法人化が有利に働くことが多くなります。将来の税制改正の可能性も視野に入れながら、専門家と相談して最適なタイミングを見極めることが大切です。

出典: No.2260 所得税の税率|国税庁

専門家との連携体制

不動産の評価は非常に複雑で、評価方法の選択や計算方法によって大きく結果が変わります。税理士、不動産鑑定士、弁護士など、複数の専門家と連携しながら進めることが不可欠です。

特に、以下のような局面では専門家のサポートが重要になります。

  • 法人設立時の資本金や株主構成の設計
  • 不動産の現物出資や売買による法人への資産移転
  • 相続発生時の株式評価と申告
  • 事業承継計画の策定と実行

私たちWIN SQUAREでも、提携している税理士や弁護士と連携し、お客様の状況に応じた最適なプランをご提案しています。

書類・記録の徹底管理

法人名義で不動産を保有する場合、将来の税務調査や相続時のトラブルを避けるため、関連書類の整理と保管が極めて重要です。

保管すべき主な書類は以下の通りです。

  • 不動産売買契約書
  • 登記簿謄本(登記事項証明書)
  • 固定資産税評価証明書
  • 株主名簿と株式の異動記録
  • 株主総会議事録
  • 賃貸借契約書(収益物件の場合)
  • 修繕履歴や領収書

これらの書類は、税務申告や評価計算の根拠資料となるだけでなく、将来的な売却や相続の際にも必要となります。デジタル化して保存するなど、紛失リスクを最小限に抑える工夫も有効です。

定期的な見直しと戦略の更新

税制は頻繁に改正されるため、一度立てた戦略をそのまま継続するのではなく、定期的に見直すことが大切です。特に、相続税や法人税の税率変更、評価方法の見直しなどがあった場合は、自社の戦略が最適なものかどうかを再検証する必要があります。

また、事業規模の拡大や家族構成の変化など、自社や個人の状況が変われば、最適な対策も変わってきます。年に一度は専門家と面談し、現状確認と戦略の見直しを行うことをお勧めします。

対策と注意点のまとめ: 法人化の成功には、適切なタイミングでの実行と、その後の継続的な管理が不可欠です。特に名古屋市内で複数の収益物件を運営されている場合、物件ごとの収支管理や税務処理が複雑になるため、専門家との連携体制を早期に構築することが重要になります。また、関連書類の管理を徹底し、いつでも正確な評価や税務申告ができる体制を整えておくことで、将来的なリスクを最小限に抑えられます。

 

まとめ

法人名義で保有する事業用不動産は、適切な評価方法の理解と戦略的な税務対策により、節税効果と円滑な事業承継の両立が可能になります。不動産そのものではなく株式が相続の対象となるため、株主構成や評価方法の工夫次第で大きなメリットを享受できます。

一方で、法人化にはコストや事務負担が伴い、売却時の税率が不利になるケースもあるため、総合的な判断が求められます。特に複雑な評価方法や税務ルールについては、税理士や不動産鑑定士などの専門家のサポートが不可欠です。

私たちWIN SQUAREは、名古屋市を中心に事業用物件・収益不動産の売却や相続サポートを専門に行っており、法人所有不動産の評価から税務戦略まで、豊富な実務経験に基づいたアドバイスを提供しています。お客様一人ひとりの状況に合わせて、最適な資産承継の形を一緒に考えていきます。

事業用不動産の評価や法人化、相続対策についてお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。関連書類を整理し、専門家と連携しながら、計画的に資産を管理することで、将来にわたって安心できる資産承継を実現していきましょう。